ドイツ支部 リヒャルト師範のレター 「原点に戻る」
30年に渡る日本での勤務を終え、2017年末、生まれ故郷ドイツ・ミュンヘンに戻ってきました。
在留中には、幸運にも山本館長の道場で鍛錬の場を得て、貴重な経験を積むことができました。
さて、30年ぶりの母国ドイツは、EU発足、東西ドイツ統一や大量の移民受け入れなどを経て、その昔とずいぶん変わってしまい、自分の生まれ育った国とはいえ、大きなカルチャーショックを受けました。この間、出張で毎年来てはいましたが、実際こちらで生活を始めてみると、戸惑いも多く正直慣れるまで時間がかかりました。
そのうち、ようやく落ち着いて余裕も出来たため、剛柔流の稽古を再開しようと、かつて指導していただいていた日本人の師範に相談したところ、今は昔の様に厳しい稽古をすると生徒がついて来ない、痛みや怪我をするのを恐れて、実戦的な組手を指導する道場はないとのこと。頼みの綱のその師範自身、健康的な理由で、数年も前から道場を閉鎖していたのでした。
そこで、いくつかの剛柔流道場を探し出しては、試し稽古に出かけてみましたが、なかなか思うような所が見つかりません。大人の生徒が少なかったり、稽古時間が短い、稽古日が少ない、更には指導者の本場での経験がない、技術のレベルが低いなど、満足のいくところは一つとしてありませんでした。八方塞がりの中、私は仕方なく今の道場を選択することにしました。
週に3回稽古日があること、稽古場が広く大きな鏡があることがその大きな理由でした。しかし、その道場の指導者や生徒たちのレベルはあまりにも低く、山本館長の道場とまるで比較にもなりません。
黒帯は8人ほどいるのですが、その実力は箸にも棒にもかからない名ばかりの黒帯で、簡単に突きか蹴りで倒すことができるばかりか、こちらが受けでも、逆に相手にダメージを与えるほどの弱腰なのです。弱いのは仕方ないと一歩譲っても、他の生徒同様、稽古では私と当たらないように私の目前からスゴスゴと逃げていくようになったのには、また呆れてしまいました。やっとここで稽古が再開できると、嬉々として通い始めたものの落胆ばかり。
なにしろ、剛柔流空手の基本中の基本である息吹さえまともにできていない有様です。それに加え、基本、基本移動、約束組手、組手は全く実戦を想定していない無意味な練習に過ぎないのです。間合い、目線、相手の動きの読みの重要性を認識していない様子です。ところがなぜか型分解だけは特別に信奉していて、繰り返し熱心に練習しているのも笑止千万な話です。とにかく基本をないがしろにしながら、剛柔流の看板の下で行われている、これら自己流の指導の数々には怒り以外何も感じません。
黒帯の面々はヨーロッパ各地は元より、沖縄までゼミに参加しているとのことですが、一体その研修で何を学んできているのか、只々呆れるばかりです。
私も何度となく指導者や稽古相手の生徒に間違いを正してきたのですが、これまでのやり方を変えるのはプライドが許さないのか、全く聞く耳を持ち合わせていません。それどころか、終いには私を煙たがるようになってきました。指導者は意図的に黒帯と私と組みで稽古させないようにする始末です。謙虚な態度もなく、向上心のかけらも持ち合わせていない連中には、怒りを通り越してただもう諦めの境地ですが、こんな状況の中でも、今まで指導頂いた正しい剛柔流の道だけは貫きたいと、週3回ほとんど休むことなく一年近く続けてきました。
しかしそれでも、見てわかるものには伝わるのでしょう、最近では、その道場の中の2、3名が私の空手に関心を持ってくれるようになりました。残念なことに、長年の間違った指導で身につけた動作は簡単には直せませんが、私が身をもって正しい所作を説明すると、目から鱗が落ちるといった表情で、本物の剛柔流空手をもっと知りたいという気持ちを掻き立てているのが手を取るようにわかります。それもあって、一般の稽古の後、30分特別指導を乞われるようになりました。今はわずかな人数ですが、真の剛柔流空手を愛しその素晴らしさを伝えたい私にとっては大変喜ばしいことです。本物の剛柔流を知りたい、学びたいという生徒がもっと増えてくれるのが目下の願いです。
一歩ずつですが、これからも山本館長にご指導いただいた伝統の剛柔流を妥協することなく、この地で続けていきたいと考えています。山本道場で厳しくも細やかにご指導いただいた剛柔流空手は、私のかけがえのない”絶対真”なのです。
皆さんも迷うことなく山本館長の道を続けて歩んでください。
2019年春、ミュンヘンにて リヒャルト