新型コロナウイルスと空手と私(七段教士 大西宏禧)

2021年(令和3年)4月22日
剛柔流空手道 IKO全日本空手道会 
神田錬成館道場       
有段者会 会長 七段教士 大西宏禧

 

1.
 昨年の3月以降、神田錬成館道場も、新型コロナウイルス感染拡大防止の趣旨に添って、集団での鍛錬は取り止めて、道場は閉鎖としていました。
 更に、海外との交通手段も、運航停止となり、神田錬成館道場に良く出向いてくれた香港の楊九段、ドイツのリヒャルト・クラツクラウアー七段、オーストラリアのピーター・マクガイヤー七段他、諸外国の教士・錬士が来日する事が困難となり、剛柔流の振興を図ることが出来ませんでした。
 また、山本館長及び数名の教士・錬士によるイタリアやオーストラリアへの出稽古も中止となり、世界的に感染低下の兆しが見えず、年末までの終息を期待したが、新型コロナウイルスの猛威が、止まることは無く残念な1年となってしまった。ただし、道場では山本館長の計らいで、自主錬での道場の使用は許可していました。

2.
 今年に入り、1月に恒例の昇段試験を実施しましたが、この状況下では、盛り上がりに欠けてしまいました。その流れの中で、新型コロナウイルスを理由に、昨年来から空手の鍛練を中止していましたが、流石に運動不足になります。体の動きに「切れ」が無くなってきましたので、山本館長の提言に従い、自主錬を実行することにしました。この2月以降、毎週木曜日、道場で基礎鍛錬に取り組むとして実行に移しました。誰にも声掛けをすることも無く、基礎鍛錬を始めました。東京のど真ん中、神田の道場を独り占めにして使う鍛錬は贅沢そのものである。家人は、独りでは怖くはないかと問うが、空手の修行中で何にも怖くはない。道場では雑念を払って「目一杯」体を動かしている。

3.
独りで鍛錬をしているが、始めと終わりは、いつもの通りに黙想に始まり礼を捧げ、準備体操に入る。終わりも黙想し礼を捧げて終了としている。手順は大切です。正拳突き(上段・中段・下段)、下段蹴り、前蹴り、関節蹴り、振り打ち、基本移動 四股立ち45度4本動作等この自主錬で気が付いたことがあります。
 自分は今迄、鏡を見て鍛錬することがありませんでした。独り道場で鍛錬をすることにより、壁一面の鏡の中に一人の他人が、同じように鍛錬をしています。鏡の中の他人は、未熟な空手だと私に指摘をしてくれています。鏡の中の他人は、本当は恐ろしい師範です。連続技の繰り返しの中で、鏡の中の他人に、自然体の型が決まる時があります。強い空手ではなく、品格を感じる時です。剛柔流空手の所作に品格が醸し出される変化です。この変化を淡々と求める境地に至るまでの時間が必要となります。勝か負けるかを競うスポーツとの限界がここにあります。
 私たちが取り組んでいる空手は、スポーツでは無く、時間の掛かる限界の無い武道であり武術です。武道・武術には引退が有りません、卒業も有りません。一生涯鍛錬をして、自己を厳しく見つめる定めとします。強い空手は、40歳代迄でそれ以降は、品格のある空手を目指すべきものと考えています。
 例えば、剣道の最高位は範士とされ、教士八段の上が範士とされるが、この八段範士の審査には、七段合格後10年の修行期間を経て、年齢46歳以上の者との条件があって、合格者が極めて少ない審査として、高い権威があります。勝てば良いというスポーツではありません。剣に品格を求めています。だから武道であり武術なのです。空手も同じです。鏡の中の他人は、いろいろ教えてくれます。

4.
新型コロナウイルス終息後、世界の仲間と神田錬成館道場で、再開するのが楽しみです。それまで自主錬に励みましょう。

以上

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